第二回 クラウンJUKA

30周年を迎える野毛大道芸。初回から野毛大道芸の歩みを見てきた森直実(野毛大道芸アートディレクター・アドバイザー)が語るディープな芸人列伝。

 

クラウンJUKA

嘗て、サーカスのクラウン(道化)を養成する学校「クラウンカレッジ・ジャパン」があった。1989年12月にその一期生の卒業公演が、品川区総合区民館で行われた。クラウンJUKAさんは、その一期生である。この一期生仲間に、現在活躍中の大道芸人「三雲いおり」さんも居た。日本には、道化とはピエロしか認知されていない時代に、クラウンと言う用語をもたらしただけで、画期的であった。

 

1986年「野毛大道芸ふぇすてぃばる」(現・野毛大道芸)が始まった時代、このクラウンと言う言葉を定着させるべく野毛大道芸実行委員会は苦労していたから、クラウンカレッジと言う言葉は画期的であったのだ。

 

何故クラウンにこだわりがあるのか。ピエロについて少しだけ考えてみよう。日本人がイメージするピエロのスタイルは、まずチビ、デブ、ハゲである。ぶかぶかで身体に合わない、しかも滑稽な模様の、左右非対称のヘンテコな服を着ている。足もサイズの合わないアヒルの足みたいな靴を履いている。顔は、三角まなこ、赤い丸鼻、大口、頬も赤い、耳も変に大きい。外見からしてこのとても変な男は、バカ、ドジ、マヌケで失敗ばかりする。知的障害者でもあるようだ。おのれの分をわきまえず、やたらに純粋な恋をして女から蔑まれ失恋したりする。哀れである。これをからかいの対象として、あるいは嘲笑の対象にした時代も確かにあったと思う。今、冷静に考えると、これはどうだろうか・・・と言う事なのだ。人権問題であるとも言える。ピエロは、たくさん居るクラウン(道化)の一人に過ぎない。ピエロも居て良いかもしれない。しかし、色々なキャラクターのクラウンが居て、ピエロはその一人に過ぎないのだ。日本では、明治以降に外国からクラウンが流入した時、どういうわけかピエロだけが定着してしまった。ピエロだけが、日本ではクラウン(道化)なのだ。これは、貧しいと思う。クラウンは、人間のサガをデフォルメしたもので色々居て、例えばやたらに怒りっぽいとか、お人よし、いつも元気で楽しそう、意地悪、ひがみっぽい、執念深い、空威張り、嫌味な金持ち、等々色々なキャラクターがある。

 

さてクラウンJUKAさんであるが、クラウンカレッジ時代に、著名なクラウンの一人ジェフリー・マクマレンに指導を受けた。クラウンJUKAさんのキャラクターは「生活臭が無い。ひたすら元気。楽しい事が好き」というもので、クラウンカレッジ時代にこのキャラクターが師によって見出され、今も続く。アメリカに師に付いて渡り、ウィスコンシン州とロスアンジェルスなどで、クラウンとしての自分を磨いて帰国。当時の花博などで活躍した。

 

JUKAさんは「クラウンは夢を売るもので、それを壊してはいけ無い」という師の教えを、今も頑なに守っている。だから、大道芸で自分から投げ銭を要求する事は無いし、初めから投げ銭をもらう気が無い。「クラウンが可笑しな事をやって、その後でお金をもらうのは夢が壊れるでしょ」というのが、クラウンJUKAさんのポリシーである。理想を貫くには厳しい現実があると思う。クラウンカレッジジャパンを卒業して、クラウンとして生きている人は極めて少数である。クラウンでは生活が成り立た無いのだ。そう「クラウンJUKA」という芸名は、ダテではないのだ・・・と私は思う。

 

2016年4月23・24日、30周年記念「野毛大道芸」会場のどこかに、いつものクラウンJUKAさんが元気に居ます。楽しんでください、応援してください。

(写真/文 森 直実)

野毛大道芸

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